■Event Report
経済評論家
杉村 富生氏
経済評論家
杉村 富生氏
9月末に日経平均株価は大幅安になりました。いろいろな理由はありますが、ひとことで言うと需給要因によるものです。心配はいりません。結局のところ株価調整で是正されますから。逆に需給要因による下げは、いわゆる突っ込み買い(株価急落後の反発を狙う投資手法)のチャンスです。
ノーベル賞やFRB(米連邦準備制度理事会)の金利政策、米国景気の行方など騒がしいですが、日本で心配するのは余計なお節介かもしれません。それよりも今、注視すべきテーマがいくつかあります。その1つが「PBR(株価純資産倍率)1倍奪回作戦」です。
アクティブ運用型ETF(上場投資信託)が2023年6月に解禁され、同年9月7日に6本上場しました。そのうち人気を集めたのが、PBR1倍割れ銘柄を組み入れるETFと、コーポレートガバナンスいわゆる経営者の意識改革を求めるETFでした。
PBR1倍割れ銘柄を組み入れるETFには、例えば、三井住友フィナンシャルグループ、ホンダ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、日本郵政、豊田自動織機、日本製鉄などが入っています。
ただし、PBR1倍奪回作戦については、ほぼ目処がついたと考えています。0.9~0.8倍ぐらいの会社は何とかなりそうです。0.3~0.4倍の会社は、もう白旗降参でしょう。実は、9月29日の昨日がプライム市場からスタンダード市場へ移行する受付期限でした。昨日までに申し込んだ企業は無審査でスタンダード市場に移行できます。おそらく200社ぐらいあったと思います。
ところが、いろいろ話を聞いてみると「今ここでPBRを1倍にすると、2025年3月までもたない」という会社があるようです。要するに、1倍にする期限の25年3月まで維持できないというわけです。維持できないと苦労が多くなるから、もうちょっと後でいいじゃないか、2024年末ぐらいからやろう――と考える会社が現実に出てきました。PBR1倍奪回作戦の目処は立っていますが、実際には2025年3月までだということを頭の中に入れておいてください。
コーポレートガバナンス関連でも注目したい銘柄群があります。アクティブETFに組み入れられている銘柄は大手金融グループや東京エレクトロンなど。他にはトヨタ自動車、デンソー、豊田自動織機、豊田通商などトヨタ系が目立っています。
今年になって、デンソーや豊田自動織機、豊田合成、愛知製鋼で社長交代がありましたが、全部生え抜きが社長になっています。これまでのトヨタ系企業にあった、トヨタが社長を派遣するという不文律を破ったわけです。コーポレートガバナンスという観点で、これは大きな前進。トヨタ系企業にはその意味でも注目しています。
自動車関連銘柄が出てきましたが、私は年初から自動車の強みが一気に出てくると申し上げてきました。例えば、全米自動車労働組合(UAW)は米3大自動車メーカー(ビッグ3)に30%の賃上げ要求をしました。30%アップなら時給換算で100ドルレベルになります。従業員は約40万人なのでたいへんに見えますが、米国における労働組合の組織加入率は7%しかありません。ビッグ3の30%賃上げが他に波及することは考えにくいでしょう。
日系自動車メーカーもテスラも、UAWに入っていません。日系自動車メーカーの労働者の時給は13.5ドルです。13.5ドルと100ドル。勝負になりません。自動車の専門家に言わせると、日本車とビッグ3の自動車で価格競争力を比較すると、日本から米国へ太平洋を超えて輸送し関税をかけても1台あたり6000ドルも安いそうです。
6000ドル安いということは、1台あたり6000ドル分の利益が乗ってくるわけです。ですから、今年の日系自動車メーカーの対米輸出は3割増。大増産です。
2015年から5年間、米国では自動車が年間1700万台売れました。20年からのコロナ禍3年間には年間1450万台しか売れていません。マイナス250万台/年、3年間で750万台のマイナスです。750万台分を挽回するために増産しようと満を持していた時にストライキ。その分を日系自動車メーカーとテスラが根こそぎ奪取するかもしれません。
電気自動車(EV)はどうか。原油価格が1バレルあたり93ドルになりました。昨日は90ドルくらいに下げていますが、おそらく100ドルくらいに落ち着くでしょう。原油価格が上がれば、どこが1番儲かるか。「ガソリンがこんなに高くなったら乗っていられない」とテスラのニーズが高まるでしょう。原油価格が高止まりしていると、EVへどんどんシフトしていくと思っています。
そこで今、日系自動車メーカーが追撃の狼煙を上げています。切り札は巨大なアルミ部品を一体成型する技術「ギガキャスト」と、EV向け駆動装置「イーアクスル」でしょう。日系自動車メーカーは製造・生産の効率性の高さが強みですから。
従来のボディ組み立ては、例えばアルミダイキャストなら86部品33工程で、ベルトコンベアの中で2~3時間かけて行います。それがギガキャストなら1工程1部品、500tプレス機によって3分でできます。今のイーアクスルは電源から駆動系まで全部モジュールになっており、それをぽんと載せるだけ。例えばトヨタやスバルでは、リョービやアーレスティのギガキャストでボディを作り、パワーユニットをぽんと乗せれば車ができるわけです。
タイヤと駆動系については太平洋工業ですね。リョービやアースレティのギガキャスト金型を作っているのはJMC。ギガキャストの製造装置を作っているのはUBEとその子会社。シートで最も先行しているのはニデック(旧日本電産)ですが、ここは中国向けで、日系自動車メーカーには納めていません。その弱さはあるでしょう。
日系自動車メーカー向けにイーアクスルを手掛けているのはアイシンです。おそらくトップシェアでしょう。デンソーが追従していますが、アイシンの方が面白いと思います。アイシンの前年度の営業利益は500億~600億円ぐらい。これを2026年3月期には何と3000億円以上にすると言っています。この数字には、これからトヨタが進めるEVの大増産が含まれていないとのこと。アイシンの株価は今、5000円前後ですが、これから大きく期待できそうです。そういう夢のある値がさ株の1つでしょうね。
私は、日本の不動産は安すぎると思っています。1990年の日本の地価は合計2477兆円でした。これが2018年に1135兆円まで落ちました。半分以下になって、まだ戻っていません。どういうことでしょう。
皆さんの個人金融資産+不動産の「家計資産」が今、3100兆円ぐらいです。30年間増えていません。日米の差を人口比で見るとわかりやすいでしょう。日本が1億人で3000兆円、米国は3億人で直近154.3兆ドルです。1ドル147円で計算して、2京3000兆円。人口が日本の3倍なら9000兆円ですから、そのぐらい差がついたわけです。
日本の不動産神話はとっくに崩れましたが、それでも私は日本の不動産は割安に放置されていると思います。これは上がっていくでしょうね。米国をはじめ海外では不動産神話が残っている国・地域は多いですから、不動産会社は外国人のウケがいい。三井、三菱、住友などがありますが、平和不動産が安いと思っています。再開発が進んでいる兜町周辺は平和不動産の仕事。東京金融シティ構想の一翼を担っていくでしょう。
日本の個人金融資産を取り戻すには、株式投資しかありません。皆さんの個人金融資産の50数%は現預金。一方の米国は株式投資が多いから成長できた。日本はほとんど利息ゼロの預貯金に置いておいたのですから、増えるわけはありません。株価は一服することもあるでしょうが、下がったらまた進めればいい。拡大NISA(少額投資非課税制度)も始まります。これからは皆さんの「タンス預金」100兆円が動き始めるのです。
世界の投資家が日本株を買い始めています。例えばウォーレン・バフェットさんは商社株を買っています。1280兆円を運用している資産運用会社ブラックロックは今、アンダーウエイトしていた日本株を必死に買っています。MSCIのベンチマークで7%マイナスだったのですが、これを中立に戻しただけで10兆円分の開与力が発生すると言われています。10兆円を日経平均株価に当てはめると、約1万円押し上げる力になります。4万円、5万円という数字は夢ではありません。
私は投資家の皆さんにずっと申し上げています。今はおそらくほとんどの人にとって、ご存命中における最大の株式投資チャンスが訪れています。長生きすればいいことがあるのです。
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※本記事は登壇者の発言を記者が独自に取り纏めたものであり、登壇者の発言内容を正確かつ網羅的に記したものではありません。
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